GoogleからWantedlyに転職しました

今日から正式にWantedlyというスタートアップに勤めることになりました。
なぜWantedlyに決めたのかを書こうと思うのですが、やはりこの決断に至ったのは前職の影響が大きいので、前職のGoogleの話をさせていただければと思います。


僕はGoogleでは、検索のソフトウェアエンジニアをやっていました。ただ1年2ヶ月で辞めてしまったので、これからGoogleについて書くことは、すごく狭いところしか見ていない部分的な意見であることをご了承ください。

自分と検索とGoogle

Googleは、入社する前からとても尊敬する企業でした。僕は、僕が生まれてから認知している中で、Googleの「検索」というプロダクトは、最も世の中を変えたインパクトのあるものだと思っていました。今まで分からないものがあったら、親や先生に聞くか図書館で調べるといった方法しかなかったところを、Googleはキーワードを入力するだけで知りたいことが知れる世の中に変えてしまいました。この結果、学校で出される課題への取り組み方を始め一人でできるものごとの量、ビジネスのあり方など様々なものが変わったと思います。もちろん他の様々な要素の貢献はあると思いますが、根本はGoogleの創業者の一人が考えだしたPageRankという検索結果の順位付けに関する一つのアイデアを形にしたことが始まりだと思います。
少数の力で速いペースで世の中を良くすることができること、これが、政治家など他の職業ではなく、エンジニアであることの一番の喜びだと僕は思っています。


そんなわけで、僕は大学4年生の頃から検索っ子で、検索を研究テーマの一つとしている早稲田の山名研究室で研究生活を送り、その間に、検索・推薦エンジンを作っているPreferred Infrastructureでアルバイトを経験させていただき、検索やその周辺課題を研究しているMicrosoft Researchの酒井さんの元でインターンをさせていただきました。


そんな僕が結果的にGoogleにエンジニアとして採用されたわけですが、Googleは割とジェネラルにプログラムが書ける人を採用するので、実は、検索を専門にしていた学生が新卒としてGoogleに入ることは珍しいのではないかと思います。僕がGoogleに受かった理由も、そういった経歴の部分よりも、ICPCなどのプログラミングコンテストに多数出場経験があったため、採用試験のコーディングクエッションに素早く正しく答えられたというのが大きいと思います。

Googleで何をやりたかったか

さて、ここからGoogleの検索部門に入って、僕が何をしたかったかということを話そうかと思います。まず、検索を良くするためには、今何ができてないかちゃんと答えられることは大事ですよね。


そこで、皆さん、「今の検索の問題点、不満な点はどこですか?」と聞かれたらなんと答えますか?ちょっと考えてみてください。






僕が導き出した現状の検索の一番の問題は、「今自分が本当に困っていて解決したい問題」は全く検索しない、検索したとしても大して役に立つ結果が得られないという事でした。


正直僕たちは、もう何か知りたい"もの"が調べられなくて困ることって殆ど無いんですよね。でも、自分や自分の周りの人が困ってることとか聞いてみると、みんなそれぞれ困ってることはあるわけです。


彼女ができない、就職できない、人間関係がうまくいかない、他人に流されやすい、今日暇すぎる、いじめにあってる、定年して何したらいいかわからない、大切な人が重病、宇宙飛行士になりたいけど今何すればよいかわからない、新しく仕事を任されたけど何から手をつけていいかわからないなどなど。


あれ、これの解決法って実は重要な情報で、大きな意味で知りたいものなんじゃないかなと思いました。

解決案

問題提起だけして解決案を提示しないのは、エンジニアとしてあるべき姿ではないので、次は解決法を考えてみようと思います。


まず、こういう問題を解決できてる人はどうやって解決してるんだろうと考えると、人に相談すると本を読むことの2つがメジャーな方法だと思います。その他にも、自己解決、時間が解決、問題自体を無視するなどあると思いますが参考にならないかベストでは無さそうです。


で、この人に相談、本を読むが解決策なら、検索エンジンとして何もしなくて良いかというとそんなことは無いはずで、きっちり相談すべき人、読むべき本を提示してあげるべきです。だって、問題に対して相談すべき相手や読むべき本を見つけ出せている人は消して多くないはずですから。
人に相談するパターンでの方法としては、その分野の専門家か、同じ問題に直面したけれど切り抜けた人を見つけ出し、その人に低いコストで質問できるようにする、もしくはその人が過去に書いた答えを表示することが考えられます。
特に、レアな病気にかかった場合などは良い例で、質問者も回答者もお互いに質問する気、回答する気は起きる気がしています。Google Moderatorのようなものを使って質問を管理すれば、相談すること自体のハードルを下げることや回答を再利用することもできるかもしれないわけです。


例えば「いじめ」に関しては、専門家はもちろん、いじめから抜けだした人はいくらでもいるし、死ぬ直前まで行ったけど生き残っている人もいるわけです。
彼女ができない」問題に関しては、検索するとそれなりの結果は出るのですが、ナンパやパーティーなど抵抗ある人にはできないし、バイトで周りに女の子がいても、女の子に声かけられない人は声かけられないんです。でもそんな感じの人でも最終的に結婚してる人はいるだろうし、そういう人が実際どうできたかを聞ける機会があっても良いと思うんです。


本に関しては、具体的に、「サーバーを管理する方法」「起業する方法」などで検索するとわかるのですが、どれも確かに正しい内容は書いてあるのですが網羅性にかけ、その記事だけを読んでも具体的なアクションに結びつかないようなものしか出て来ません。それに対し、書籍であれば、実際に1冊よめばかなり網羅的に知識がつき出来るようになるものが存在します。こういった時に本を提示すれば、実際に、なりたい自分になることや、やりたいことの実現によりつながるのではないでしょうか。正直、現在のような中途半端に人を満足させるような検索結果しか出ないことは、検索がなかったころよりも人をダメにしてるとすら思います。


暇過ぎて困る」など、やることやりたいことが見つからない系の問題に関しては、今流行のソーシャルゲームをやらせるなどでも良いですが、例えば、最近は予定を全部Googleカレンダーなどクラウド上で管理している人も多いので、今日同じく暇であるはずの友人を教えてあげる事が考えられます。他にも、同年代の人がよくやっているアクティビティの一覧とその始め方を出す、興味がありそうなもしくは学習教材、本、音楽、動画などを推薦してあげるなどいくらでも方法はあるわけです。


このように検索する際にある程度コンテンツを作ってあげる事により、人が今本当に困っている問題に答えを出してあげるということは僕はやるべきなのではないかと思います。検索には「Web上に無いコンテンツは検索できない」という根本的な問題もあるので。

なぜ実現できなかったか

さて、こういうアイデアをなぜ実現できなかったかという部分ですが、正直、僕の力不足です。それはまず認めておきます。世の中、優秀な人が本気で頑張れば不可能なことなんてないので。その上で何故難しかったかを書くことにします。ただ、これは社内の仕組みに触れる部分なので、そこら辺は、NDA違反にならないレベルで、端折りつつ、さらに抽象的に書きます。


一般に、皆を説得してプロジェクトとしてすすめるためには以下の3つの方法があると思います。僕はこれらの方法をそれぞれ試みましたが、挫折しました。
1.皆が良さを実感するようなデモを作ってを見せる
2.データで示す
3.偉い人に直訴


1.の方法は自分の提案にはそぐわないものでした。そもそもあれだけ大規模になったシステムの上で複数の物を組み合わせてデモを作るというのはかなりコストが高いということもありますが、僕の場合、人に相談するという提案も、適当にデータを作り何かうまいこと答えてもらっている図を作っても意味が無いし、本の提案もGoogleBooksの検索結果を間に挟むことくらいなら簡単にできるけれども、それを見せたところで、自分が口で話す以上の感動は何も起きない類のものでした。


2.に関しては、Googleはデータ主義であることは割と知られている事実だと思います。
僕がやりたいことは今ない使われ方を提供することでした。それ現状の結果しかないデータから自分がやろうとしてることの有用性を見出して証明する方法は僕には想像もつきませんでした。ユーザーが知りたいことが全て現状の行動に表れているとすると、何で検索される文字列はあんな不自然な空白で区切られたものばかりなのか僕は疑問に思いますが。
もう一つ感じたのは、視聴率重視の番組を作ると、重いけれど価値ある良い番組は駆逐されていくテレビ業界で言われていることと同じ事が起こっているということでした。ただ、これは感覚的なもので、この事自体を証明している資料は無いということと、何を良いと定義するかは自由であることが問題をより難しくしていることだけ付け加えておきます。


3.もやってみましたが、QAサイト的なものを今更やってもうまくいかないだろう、本の結果を出してみる話も、ユーザーは数分で見てすぐに知れる結果の方を求めているのではないかというような話に終わりました。僕はこの時スティーブジョブスの独裁の重要性と必然性を感じました。


けれども、実際冷静になって考えると、自分は今与えている仕事に対し、こんな事やっててもダメだーと言いつつ、上手くいくかもわからないアイデアを主張してくる、正直迷惑な新人極まりないと思います。特にチームの上司には迷惑をかけたなと思います。
これが「現状の問題をコツコツ解決している」現場と「新しい問題を見つけ、それの解決法を探る」研究の違いなのかもしれず、僕が研究的なマインドに染まってしまっていたのが不幸な部分だったのかもしれません。それでも、Googleはユーザーの利便性は考えられてもユーザーの幸せについてはあまり考えられてないんじゃないかなという漠然とした思いは自分の中からは消えませんでした。

Googleを退社することを思い立った経緯

先程も述べましたが、自分が言ったことを社内で実現するのも不可能ではなかったと思います。与えられた仕事でGoogleの先輩社員以上の成果を出して、更に空いた時間でやりたいことの企画書、デモ、プレゼン資料を作り、本社にいる凄く偉い人の前で流暢な英語で説得力のある発表をすることが出来れば。でも残念ながら僕はそんなにスーパーマンではありませんでした。


ある時、いろいろな可能性を模索していく中で、自分がやりたいことは社内じゃないとできないのか?と疑問を持ち、社内よりも外に出て100%の時間を使って自分で作った方が早いのではないかと考えるようになりました。自分が考えた案の幾つかは社内でやらないと意味がないけれども、幾つかは外でもできるものでしょう。本当にそれがGoogleの検索にとっても価値があるなら、価値を示した後で買収してもらって使ってもらえるユーザー数を劇的に増やすことだってできるわけです。何がOKで何がダメかも固定された上の人が決めるのではなく、どこかからお金が集まって、ちゃんとサービスを運営していくことが出来たらOK、できなくて会社が潰れてしまえばダメだったことがはっきりします。


ただ自分は、一人でやってもモチベーションが続く人間でないことは自分で理解していました。そこで仲間を集めて会社を作るという案が生まれ、そうすると必然的に会計や登記関係に関する懸念が生まれ、自分で起業する方法と共にある程度自由のきく小さい会社(僕は勝手に5人以下と数値を決めていました)を見てみるという方針に発展して行きました。


ただ、それでもやはりGoogleの給与や福利厚生などの待遇は捨てがたいものがあります。そんな中でもやはりGoogleを去る決断ができたのは、何かをやりたいという未来に対するポジティブな感情だけでなく、現状に対するネガティブな感情もあったことは告白しておきたいと思います。


まず、僕がこれまで言ってきたことというのは、どれだけ独自性があるのでしょう?そしてどれだけ誰にも受け入れられないような間違ったことを言っているのでしょうか?僕は社内で僕と同じようなことを言っている人に一人も会いませんでした。少し先に辞めていった年上の同期の言葉を借りると、正直、自分だけ頭がおかしいのかと思った(Google 辞めました - アスペ日記)ことがありました。


もう一つ。本当にGoogleは環境がよく、与えられた仕事も、やる価値が全く無いわけではもちろんないので、やっていたら現状に満足していってしまうことにも気づきました。自分が何かを変える前に、自分が変えられてしまう。僕を退社に踏み切らせたのは、そういう恐怖感でした。


これが社内の異動などの選択肢もあったにもかかわらず、社外に出る決断をした理由です。
Googleの話だいぶ長くなっちゃいました。

そんなこんなでWantedlyに決めた理由

もうここまで書けば、Wantedlyが自分がGoogleで抱いた解決したい問題の幾つかにマッチしている事がわかるかと思います。特にその中でも就職に関する問題は、自分自信や、自分の親しい友達やいとこに対して起こっているので凄く当事者意識があります。「就職できない」はもちろん、「就職したけど、全然楽しそうじゃない」「学生時代自分がやってきたことややりたかったこととは全く違うところに就職してしまって後悔している」などなど。
僕はこういう身近な人が感じている問題を解決していきたいなと本気で思います。ちなみにこのマッチングの問題は、検索・推薦という技術的な文脈でも面白い分野なのでこのあたりはまた別の機会に書きたいなと思います。


やりたいことがそこにあるというのはもちろん大きな理由ですが、ただここに決めた一番の理由はそれではないです。


自分は、アルバイトなどで、小さい会社を幾つか経験してきているし、そういう経験をしている友達も多いです。そういう人達と話している中で行き着くのは、小さい会社で一番大切なのは、何をやるかでも、資金でも、ビジネスモデルでもなく、メンバーの人間関係です。


小さい会社であればあるほど、メンバーと密に議論するし、人間関係は必然的に深く濃くなります。気の合う仲間と仕事していたほうが楽しいというのはもちろんありますが、こういう時は良くない状況の時も考えた方が良くて、会社がうまく回っていない時はあるでしょうし、さらにその状況下で、意見の対立だってあるでしょう。そんな中で、誰かと口も聞きたくないぐらいの人間関係になっては本当におしまいです。大きい会社なら、上司に気を使ってもらったり、最悪、人事異動をしてもらったり対応はいくらでもありますが、小さい会社だと辞める以外の選択肢がなくなるのは想像がつくでしょう。


だから、自分がそれぞれのメンバーを尊敬できるか、意見が対立してもちゃんと折り合いが付けられそうか、間違ったことを言っても許しあえる雰囲気があるかというのは見ておいた方が良いと思います。もし、小さい会社への就職を考えているという人がいれば覚えておいてほしいなと思います。


この辺は、CEOの仲さんもインタビューで「何をするかより誰とするか」と言っているので考えは同じだと思います。ただ、何をするかもすごく大事だと僕は思っていて、その中でどちらが上かをつけるならという意味です。多分、仲さんもそうなんじゃないかなと思います。


ただ、なんだかんだ言いつつ、僕はこのメンバー凄く面白いって思ったのが決定打です(笑)

とりあえず、メンバーは他にもいるのですが、正社員の三名だけを紹介すると、


CEOの仲さん。もう何度も会っているのに、何度あっても、僕はこの人の10%もわかっていないなぁと思わされるすごい人。多才だし、すごいしっかりしたことを言うなと思えば、急にぶっ飛んだことを言い始めるのがすごく面白い。簡単に言えば、こういう記事が書けつつ、こういう記事も書けちゃうところがとても好きです。


CFOの萩原さん。オフィスに始めて遊びに行った時、いきなりチーフ残飯(雑用)オフィサー(CZO)と紹介され、ファイナンスはもちろん何でもやっちゃう、いじられキャラです。ちなみに、ピアノも弾けるし駐車もできます。それでも、皆(特に仲さんw)がぶっ飛んだ時にが最後に締めてくれる頼りになる人です。


CTOの川崎さん。決めゼリフが、ゆるい表情で( ー`дー´)キリッ。もともとFacebookで友達の友達としてつながっていてWantedly的に僕が採用されるに至ったキーパーソンです。エンジニアとしても信頼出来る上、マネージングがうまいなと感じています。


Wantedlyの目標は「究極の適材適所」なのですが、これは少なくとも社内ではできているなと感じます。それぞれがそれぞれに合った役をきちんとできています。


実は、Wantedlyは、僕と会う2回目に、社内の戦略を話しあうようなブレインストーミングに僕を参加させてくれました。

この時、僕は、ここでは、「正しい意見だけじゃなくて、馬鹿な意見や間違った意見」もいっぱい言えることに気づきました。そして、間違っていたら誰かが正してくれる雰囲気があるのが凄く安心感があって、これが、僕がWantedlyを一番気に入っているところです。これからもこの雰囲気はずっと続いて欲しいなと思っています。




ちなみに、要素として次に大切だと思っているのは、何をやるか、次が資金で、次がビジネスモデル(どう収益化するか)です。


何をやるかに関しては、そもそもやりたいことが違っていたらその会社に入ることは無いだろうから、大して書くことはないです。ただ、何をするかなんて小さい会社だと状況によって簡単に変わるし、顧客(や出資者)の要求にも左右されるので、変わることが無いであろう大きいレベルでの目標に共感できれば良いという感じで、自分は捉えています。あと、そもそも何をやるかなんて大きい会社と比べて、より自分次第だと思いますし。


資金に関しては、そもそも資金の少ない会社に移っておいて何言ってるんだという感じかもしれませんが、小さい会社であればあるほどお金がなくなると、資金を確保するために本来やりたいことではなかった、下請け的な仕事をやらざるを得なくなり、そのまま下請けをやり続けるみたいなことにもなりかねないので、気をつけないと行けないなと思ってます。


収益化については、あえて書くとすれば、収益化後回しでもうまくいっているところは、特にアメリカで多いんだよと言うことは、FacebookやFreebaseなどを見て、最近気づいてきた事実です。

まとめ